がん予防から免疫力まで、最新研究が注目する理由
近年、「セレン」という微量ミネラルが、がん予防や健康長寿との関係で世界的に注目されています。セレンは体内にごくわずかしか存在しませんが、その働きは非常に重要です。
セレンの代表的な役割は、強力な抗酸化酵素「グルタチオンペルオキシダーゼ」の材料となることです。この酵素は、細胞内で発生する過酸化水素を水へと変え、活性酸素による細胞やDNAの損傷を防いでいます。酸化ストレスは、がん、動脈硬化、認知症、糖尿病など多くの生活習慣病の発症に関与すると考えられており、セレンはその防御役として働いています。
また、多くの疫学研究では、血中セレン濃度が低い人ほど前立腺がんや大腸がん、膀胱がんなどの発症リスクが高いことが報告されています。1996年には、1日200μgのセレンを約4年間摂取した群で前立腺がんの発症率が63%低下したという歴史的な臨床試験も発表されました。一方で、その後の大規模研究では同様の効果が確認されず、「すべての人にサプリメントを勧めるべき」という結論には至っていません。現在では、「セレンが不足している人に適切に補充すること」が重要であるという考え方が主流になっています。
さらに最近の研究では、セレンにはがん細胞の増殖を抑えたり、異常細胞にアポトーシス(自然死)を誘導したり、新しい血管の形成や転移を抑える可能性も示されています。加えて、免疫機能の維持、甲状腺ホルモンの活性化、ミトコンドリア機能の維持、さらには老化の進行を遅らせる可能性も報告されており、「健康長寿ミネラル」として期待されています。
セレンを多く含む食品
セレンはサプリメントだけでなく、毎日の食事から摂ることも大切です。
セレンを多く含有する食品
- ブラジルナッツ(世界で最も豊富)
- 魚貝類(カツオ、イワシ、サバ、カキ、エビ、ホタテ)
- 肉類(鶏肉、豚肉、牛肉)
- 卵
日本人は魚介類を食べる機会が多いため、欧米人に比べるとセレン不足になりにくいと考えられています。特にカツオやサバなどの海洋魚は、セレンを豊富に含むことが知られています。
一方で、野菜や果物は一般にセレン含有量が少なく、植物性食品のセレン量は栽培される土壌によって大きく左右されます。ブラジルナッツは非常に優れた供給源ですが、1粒で1日の推奨量を超えることも珍しくありません。そのため、毎日何粒も食べることは避け、1〜2粒程度にとどめるのが安全です。
「不足」と「摂り過ぎ」の両方に注意
セレンは「多ければ多いほど健康によい」という栄養素ではありません。不足すると免疫力の低下や甲状腺機能への影響が懸念されますが、過剰摂取では脱毛や爪の変形、神経症状などの「セレン過剰症」を起こすことがあります。
だからこそ、今後の予防医学では、血液中のセレン濃度を測定し、一人ひとりに合わせて補充する「Precision Nutrition(個別化栄養)」が重要になるでしょう。食事を基本とし、不足が疑われる場合には検査を行い、必要に応じて適切に補充する――これが、最新のセレン研究から導き出される最も賢い活用法と言えそうです。
参考文献
He L, Zhang L, Peng Y, He Z. Selenium in cancer management: exploring the therapeutic potential. Front Oncol. 2025 Jan 7;14:1490740.
doi: 10.3389/fonc.2024.1490740. PMID: 39839762

