年を重ねると、体力の衰えとともに「運動をしても疲れて続かない」「気持ちはあっても体が動かない」と感じる人が増えてきます。そんな中、テキサス大学サンアントニオ校の研究チームが発表した最新の報告が注目を集めています。それは、筋肉の主成分でもある「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」を運動に組み合わせることで、高齢者の疲労感を軽減し、運動効果を高める可能性があるというものです。
研究では、平均年齢70歳の男女20名が、8週間の有酸素運動と軽い筋力トレーニングを実施。そのうち半数にはBCAAを含むサプリメント(ロイシン、イソロイシン、バリンを2:1:1の比率で配合)を摂取してもらいました。結果、BCAAを摂取したグループでは筋力や持久力のわずかな向上に加え、疲労感が45%減少し、気分の落ち込みスコアも約3割改善しました。一方、プラセボ群では運動だけでは疲労がむしろ増し、気分の改善も見られませんでした。
この違いの背景には、アミノ酸の代謝と炎症の関係があると研究チームは考えています。BCAAは筋肉の材料となるだけでなく、炎症を抑えたり、脳内の神経伝達物質バランスを整える働きを持つとされます。とくにロイシンは「mTOR」と呼ばれる経路を刺激し、タンパク質合成を促すことで筋肉の維持に関与します。加齢による慢性炎症やアミノ酸バランスの崩れが「疲れやすさ」や「やる気の低下」に結びつくこともあるため、BCAAの補給はその悪循環を断ち切る助けになる可能性があります。
もちろん、BCAAが「魔法の薬」ではありません。たんぱく質を十分に含む食事、良質な睡眠、こまめな水分補給といった基本的な生活習慣が大前提です。そのうえで、日常的なウォーキングや軽い筋トレにBCAAを取り入れることで、体の回復が早まり、運動の効果をより実感しやすくなるかもしれません。
研究はまだ小規模ですが、「動ける元気」を保ちたい中高年世代にとっては希望のあるニュースです。近い将来、BCAAが“運動のパートナー”として高齢者の健康寿命を支える重要な栄養素になるかもしれません。
Ronna Robbins et al, Branched-Chain Amino Acids Combined with Exercise Improves Physical Function and Quality of Life in Older Adults: Results from a Pilot Randomized Controlled Trial, Dietetics (2025). DOI: 10.3390/dietetics4030032









