メトホルミンと健康長寿

年齢を重ねること(加齢)は誰にも避けられませんが、年齢に伴う身体の衰え(老化)については、その進行を緩やかにする工夫ができるのではないか。そう考える研究が世界中で進んでいます。

その中で注目されている薬のひとつが、2型糖尿病の治療薬として長年使われているメトホルミンです。

つい最近発表されたアメリカの研究では、60歳以上の女性で新たに2型糖尿病と診断された人たちを対象に、メトホルミンを使い始めたグループと、別の糖尿病治療薬(スルホニル尿素薬)を使ったグループを比較しました。その結果、メトホルミンを使った人の方が90歳以上まで生存する割合が高く、死亡リスクが約30%低かったという興味深い結果が示されました。

この研究は、生活習慣や体格、持病などを考慮して公平に比較されており、メトホルミンの使用が「健康寿命の延伸」に関係している可能性を示唆しています。

さらに、現在進行中のTAME試験(Targeting Aging with Metformin)では、メトホルミンが加齢に伴って起こる複数の疾患(心血管疾患、がん、認知機能の低下など)の発症をどの程度抑えられるかが検討されています。この試験結果は、老化予防の医学的アプローチにおいて大きな意味を持つと期待されています。

もちろん、メトホルミンはすべての人に適した薬というわけではありませんし、長寿の“特効薬”と断定するにはまだ十分な証拠が必要です。ただ、加齢による変化を受け入れながらも、その質を高める選択肢があることは、私たちの生活にとって心強い情報です。

加齢を止めることはできませんが、老化に対しては科学的に取り組むことができます。

これからの医療では、「病気を治す」だけでなく、「老化を制御する」視点が、ますます重要になると言えそうです。

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