治療薬としてのビタミンD

ビタミンDを十分補充している方では、COVID-19感染率が低いことは以前のブログでもご紹介しました。こうした研究はコホート研究と呼ばれるもので、わかりやすく言えば実態調査にすぎません。つまり、ビタミンD血中濃度が高いこととCOVID-19感染率が低いことは、偶然起きていた現象に過ぎないかもしれません。

医学研究では、コホート研究で得られた事実を今一歩踏み込んで検証する必要があります。それを介入試験と呼びます。具体的には、ビタミンDを摂取するとCOVID-19患者の病態にどのような影響があるのかを臨床の場で調べることになります。

つい先日の6月7日に発表されたスペインからの研究報告は、COVID-19感染患者に対する治療薬としてのビタミンDの有効性を検証するための介入試験でした。この研究では、COVID-19感染にて入院した患者、838名をビタミンD投与群(447)と非投与群(391)に分けて、重症化率と死亡率の差異について検討しています。その結果はビタミンDの有効性を驚くほど顕著に示すものでした。

本研究では、ビタミンDが肝臓で代謝されてできる、Calcifediol (カルシフェディオール):25(OH)D を試験薬として用いています。25(OH)Dは入院日に532μg、追加として 3,7,15,30日目に 266 μg投与されています。その結果、838名中、ICUに入室したものが102名、死亡者が83名いました。さらにCalcifediol投与群と非投与群の内訳は以下のようなものでした。

Calcifediol患者数ICU死亡
投与群4472021
非投与群3918262
 J Clin Endocrinol Metab. 2021 Jun 7

25(OH)D投与群ではICU入室した患者の割合は 4.5%、死亡率は4.7%。非投与群ではICU入室した患者の割合は 21%、死亡率は15.9%でした。もちろん統計学的に有意に、25(OH)Dl投与群では重症化率、死亡率の低下が認められれています。

Calcifediolとは25(OH)Dのことであり、ビタミンDが肝臓においてヒドロキシ化されてできる非活性型のビタミンDです。サプリメントとして服用するビタミンDではなく、Calcifediolを治療薬として用いることのメリットは、肝臓での代謝過程を必要としないことや、肥満患者や脂質吸収障害のある患者でも有効血中濃度が維持できることにあります。

しかし、サプリメントとしてビタミンDを摂取したとしても25(OH)Dの血中濃度は上昇しますので、この結果を踏まえてサプリメント摂取を推奨することは間違いではありません。

今回の臨床試験結果は、数少ないビタミンD製剤の介入試験です。その結果は、ビタミンD製剤が、COVID-19感染患者の重症化率や死亡率を低下させていることを明らかにしています。ビタミンDには免疫機能の調整作用があることが知られていますので、今回の結果が得られた背景には、ビタミンDの働きによって、サイトカインストームの軽減など免疫機能の改善があったと推測できます。

状況証拠に過ぎないコホート研究だけでなく、今回のような介入試験によっても、ビタミンDがCOVID-19感染治療に対して顕著な効果があることが示されたことは、今後のCOVID-19感染症治療を考える上で極めて重要なエピソードだと思います。

 J Clin Endocrinol Metab. 2021 Jun 7

Nogues X, Ovejero D, Pineda-Moncusí M, et al.
Calcifediol treatment and COVID-19-related outcomes.
J Clin Endocrinol Metab. 2021 Jun 7

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