発酵食品と腸内細菌

今年の抗加齢医学会総会で最も多くの聴講者を集めた講演内容の一つは、腸内細菌に関する研究発表でした。遺伝子解析が比較的安価で容易にできるようになったため、数年前から盛んになったこの領域の研究は、日を追う毎にあらたな発見がなされています。腸内細菌の分布は、腸内フローラ(フローラとはお花畑)とも呼ばれます。1000種以上の細菌群がまるでお花畑のようにバランスを取りながら生息していることからこの呼び名が生まれました。成人男子で1.5~2.0kgほどの腸内細菌が体内に存在します。その細胞の数は人体の細胞数である60兆個をはるかに上回る100兆個以上ともいわれています。この腸内フローラのバランスが人間の疾病だけでなく、嗜好や精神状態、さらに寿命まで決める可能性が指摘されています。

ではどのような食品をとれば健康的な腸内フローラを維持することができるのでしょうか。世界で初めて食品と長寿の関係に気づいた学者がロシアのメチニコフです。彼はブルガリア地方に健康長寿の人が多いことに注目してその原因がヨーグルトに含まれる乳酸菌であることを報告しました。最近の研究では、乳酸菌には腸内の善玉細菌を増やす働きがあり免疫力を増強し疾病にかかりにくくする働きがあることが明らかにされています。

和食にも腸内環境を良好に維持する素材が多く含まれます。和食の特徴は、野菜中心でタンパク源としては大豆や魚などが中心となり動物性脂肪が少なめであることです。さらに欠かすことのできないものが味噌、醤油、漬物、納豆などの発酵食品です。これらの発酵食品には、乳酸菌のほか、酵母や麹菌など腸内環境を守るためには欠かすことのできない素材が多く含まれます。

味噌の効用について一般向けにわかりやすく説明している名著「味噌力」という本があります。著者は広島大学名誉教授の渡邊敦光先生。原爆による被爆後の後遺症が味噌によって軽減できたという説から味噌には放射線被曝による障害を防ぐ力があることがわかってきました。味噌には塩分が多いと心配される方もおりますが、1日1〜2杯の味噌汁では塩分過剰にはなりませんので心配無用です。

日本には1000種以上の漬け物がありますが、現在もっとも売れている漬け物は「キムチ」です。これは焼き肉ブームにともない若い世代を中心にキムチ人気が高まったためと考えられています。キムチも世界文化遺産に登録されたすばらしい発酵食品です。焼き肉は腸内の悪玉菌を増やしますが、キムチの乳酸菌は悪玉菌を抑える働きをしますので、焼き肉にキムチは理にかなった食べ合わせです。似たような食材がヨーロッパにもあります。ソーセージなどと一緒に出てくるザワークラウトです。これはキャベツを乳酸発酵させた食品で肉の毒消しとも言われています。

食事に発酵食品が含まれるように工夫することが、腸内環境を健康に守り健康増進につながります。

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